運動神経は小学生までにほとんど決まるとする「スキャモンの発育曲線」は信用できるのか?

2016年07月14日 - カテゴリ:子育てについて
子供の運動や運動神経などに関する本の多くで引用されるグラフがある。「スキャモンの発育曲線(発達曲線ともいう)」というものだ。

このスキャモンの発育曲線を簡単に説明すると、運動神経や器用さやリズム感などを司る「神経系型」は、出生直後から発達し始め、4歳から5歳、小学校入学までには80%が発達するというものだ。そして、骨や筋肉に関する「一般型」は、小学校から成人になるにつれて急激に発達するという。

つまり、スキャモンの発育曲線によると、運動神経は、小学校入学までにほとんど決まり、小学校を通じてほぼ完成する。そして、骨や筋肉の成長は、小学校卒業から急激に発達し、20歳までにほとんど決まるということだ。

この説明は、私たちの感覚にも近く、納得しやすい理論である。そのためか、本当に多くの書籍で見かける。確かに、筋肉などは、思春期に入ってから付きやすくなるし、運動神経が思春期ごろから急によくなるというのも考えにくい。

ただ、これほど多くの書籍や文献に引用されているグラフ・理論であるにも関わらず、この理論を提唱したスキャモンなる人物については、何も説明されない。おそらく、子供の運動について書かれた本の著者も誰も知らないと思う。ちなみに、「スキャモンの発達曲線」について詳しく説明した資料を見つけた。

小宮秀一、『スポーツリーダー兼スポーツ少年団認定員養成講習会資料 ジュニア期のスポーツ』
http://www.komiya1234.info/data9.pdf

さて、色々と調べてみると、スキャモンのフルネームはScammon R. E. であることが分かった。「スカモン」と表記することもあるらしい。そして、「スキャモンの発育曲線」は、1930年に発表された。なんと、今から80年以上も前である。

この時点で、私の中での「スキャモンの発育曲線」に対する信ぴょう性がガクッと落ちた。80年以上も前の理論が今でもまかり通っているとは…。驚きである。

そして、「スキャモンの発育曲線」に疑問を投げかける論文も発見した。

藤井勝紀、『発育発達とScammonの発育曲線』、スポーツ健康科学研究、第35巻、2013
http://tspe.sakura.ne.jp/publish/doc/35_01_KatsunoriFUJII.pdf

この論文によると、「実は、現在までScammonの発育曲線は科学的な検証はなされていない」(p.2)、「あくまでもある一定の事実による推定から導かれた仮説のモデル曲線であり、科学的な検証は成されていない」(p. 4)という。科学的な検証がなされていないにもかかわらず、私たちはこの理論をありがたく引用し続けているわけだ。

科学的な裏付けがないにも関わらず、この発育曲線が引用され続けているのはなぜか。藤井は、「結局、80年以上経った現在でもScammonの発育曲線が活用されている背景には、発育現象を説明するうえで都合が良い便利さが、Scammonという医学、人類学の研究者というステータスと共存することによって、保証されたのであろう」と分析している。確かにそうかもしれない。

なんてことだ。まさに中世ヨーロッパにおいて、解剖学者ヴェサリウスが発見するまで、心臓の心室が3つであると信じられてきたようなことが現代でも起こっているのだ(解剖学者ヴェサリウスについては、探究心を貫いた事例について - ヴェサリウスとハーヴィーを参照のこと)。

もちろん、スキャモンの理論が全くのデタラメであるとは思えない。しかし、運動神経が小学校にあがるまでに80%以上決まってしまう、という説には大きな疑問符が付く。確かに、運動神経を鍛えるには、早ければ早いほど良いかもしれないが、小学校に上がってからでも、もしかしたら小学校を卒業してからも上昇する余地が大きいのかもしれない。

私は医学の専門家ではないので、学者たちの研究を待つほかない。過去の研究に基づく常識にとらわれない、より科学的に信ぴょう性のある研究が行われることを願う。