クレジットカードと「心の会計」

2016年05月24日 - カテゴリ:蓄財について
クレジットカードを使うと、浪費してしまい、貯金を増やすことができない。これはよく言われていることだ。

これには、行動経済学でいう mental accounting (メンタルアカウンティング)と呼ばれる現象が大きく関わっている。mental accounting は日本語で「心の会計」とか「心の家計簿」という風に訳される。アメリカの経済学者リチャード・セイラー(Richard Thaler)が提唱した。

「心の会計」とは、人の非合理的なお金の使い方を指摘するものだ。人は、しばしばお金について合理的に判断することはなく、同じ額でも、どのように手に入れたのか、どのように持っているのか、どのように使うかなど、状況によって異なる価値を持つものとして扱ってしまいがちだ。

例えば、4990万円と4970万円の家とがあった場合、人はそれらの家についてほぼ同額と考えてしまいがちだが、10万円と30万円のダイニングセットだと、歴然の差があるように感じる。しかし、それら家とダイニングセットの金額の差は、同じ20万円である。

「心の会計」は、広い概念なので、上記の例は単なる一例に過ぎない。では、クレジットカードと「心の会計」はどのように関係しているのだろうか。

基本的に、クレジットカードと現金払いの違いは、支払いがその都度行われるのか、時間をおいてまとめて行われるのか、である。そして、これらの違いが、人間の心に大きな影響を与える。

財布に1万円が入っている状態で、5000円の物を買うとき、実際に財布の1万円が5000円と半分に減ってしまうのとそうでないのとでは、人間の心にかかる負担が異なる。支払いに、時間の差(タイムラグ)が生じているのである。

また、人間は、都度払いよりも、まとめて支払う方を好む傾向があるという。何回も支払を行うよりも、一括払いの方が、支払う回数が少ないため、心理的なコストが少ないのだ。

行動経済学を分かり易く説明した本"Why Smart People Make Big Money Mistakes and How to Correct Them"(邦訳版『お金で失敗しない人たちの賢い習慣と考え方』は面白い例として、ドラーゼン・プレレック(Drazen Prelec)とダンカン・シメスター(Duncan Simester)の実験を紹介している。

この実験では、バスケットボールの試合観戦チケットのオークションを行った。オークション参加者の半数には、最高落札者は現金で支払いを行うことを告げ、残りの半数には、最高落札者はクレジットカードで支払いを行うことを告げた。

オークションの結果、クレジットカードで支払いを行うことを告げられた参加者の平均入札額は、現金で支払いを行うことを告げられた参加者の平均入札額のほぼ2倍であったという。

このように、クレジットカードで支払いを行う、と考えた時点で、お金を使う事に対する自制心が弱くなり、財布のひもがゆるむ傾向にあるのだ。実際、そういった経験がある方も多いのではないか、と思われる。私もそうだ。

クレジットカードによる浪費を防ぐ最も効果的な方法は、やはりクレジットカードの使用自体をやめてしまうことだろう。

様々な理由でクレジットカードの使用をやめることが出来ない人は、面倒だが、クレジットカード用のお金の入れ物(財布や封筒など)を作っておき、クレジットカードを使った後に、使った額と同額のお金を財布からそのクレジットカード用の入れ物に移すことも考えられる。

大事なのは、クレジットカードを使うということは、それだけお金に対する自制心が失われていることを自覚すること。自分は大丈夫、とは思わないで、自分は自制心が弱い人間だ、などと落胆もしないで、人間とはそういう生き物だ、と理解しよう。そして、その人間の性質とつきあうために、自分なりの対策を立てるのだ。

参考資料:
・"Why Smart People Make Big Money Mistakes and How to Correct Them"(邦訳版『お金で失敗しない人たちの賢い習慣と考え方